「今日までの1ヶ月間、俺なりにアピールしてきたつもりなんですけど、もしかして全然これっぽっちも気付いてないですか……?」
「あ、アピールって」
心臓のあたりが、ざわざわと音を立てる。
これはなんだか、いけない気がする。
何かが変わってしまう、おかしくなる、そんな予感がする。
「じゃあ佐野さんは、俺がいつも佐野さんと一緒に帰りたがるのはどうしてだと思ってるんですか」
「え、そんなの私が聞きたいんだけど」
「俺言いましたよね、佐野さんと一緒にいたいんだって」
「え、と」
確かに言われた。記憶にある。
だけどそれは、……何故?
「少しでも俺のこと意識してもらおうとわざと近付いてみたり、隣に立ってみたり、今だって、」
「!」
少し触れたままだった指先が、神月くんの手のひらに包まれた。
暖かくて、大きくて。年下だなんて関係なく、私とは全然違った男の人の手だ。
「こんなこと、佐野さんにしかしませんよ……」
「ちょ、ちょっと待って、」
違う。おかしい。
私にしかしないだなんて、そんなの、それじゃあまるで……。
そんなはずない。
だって神月くんは、絶対人気者で、私なんかより若くて可愛い女の子が周りにたくさんいるはずで、その中から選び放題なわけで。
熱い。
神月くんの手の熱が伝わってくるのか、体が熱くなってくる。顔が火照っているような気がする。その証拠に夜風が気持ちいい。
「……佐野さん」
いつもより低い、少し掠れたこえで名前を呼ばれる。
目がそらせない。見つめ合うことしか出来ない。


