夜の公園は、静かだった。
人気がなくて、空気ですっかり冷えているであろういくつかの遊具が、寂しげに佇んでいる。
端のほうにポツポツと並んでいるベンチの一つに座っていると、缶コーヒーを両手に持った神月くんが近付いてきた。
「どうぞ」
「ありがとう。あ、お金……」
「いや、これくらい奢らせてくださいよ」
神月くんが楽しそうに笑った。
その幼い表情にふと、神月くんが2歳年下だということを思い出す。
微糖のコーヒーを一口飲んで、ふーっと息を吐き出した。
なにを、言われるのだろう。
私と神月くんの間には、人ひとり座れるくらいの距離。これが近いのか遠いのか、それさえもよくわからない。
「時間、大丈夫ですか?」
「平気平気。一人暮らしだしバイトもだいたい夕方からだし、いつも結構夜更かししてるから」
「へえ、普段寝る前は何してるんですか?」
「んー、まあ色々。本読んだり友達と電話したり、たまに夜中飲みに行くこともあるかな」
「……俺も、」
急に、神月くんの声が小さくなった。
公園が静かなおかげでなんとか聞き取れるくらいの、か細い声だ。
「俺も寝る前に、佐野さんの声聞きたいです」
「……は?」
どういう意味?
そう聞こうとした瞬間。
「あの!」
「わっ!」
突然、神月くんがずいっと体を近づけてきた。
ベンチに置いていた手が、指が、微かに触れた。
顔が近い。すぐ目の前に神月くんの真剣な目がある。
途端に、私は逃げ出したい衝動に駆られた。


