マンションの前まで着くと、2人同時に足を止めた。

「ありがとう送ってくれて。自転車も押させてごめんね?」

「いえ、俺が自分でしたいって言ったんですから。我儘きいてもらって、こっちこそありがとうございました」

そう言って神月くんは、もう何度も見てきた笑顔を私に向けた。
こういうことを自然に言ってしまうところは、確かにイケメンだなあと思ってしまった。

「じゃあまた、バイトでね」

「はい、おやすみなさい」

神月くんの背中が小さくなるまで見送ってから、家の中へと入った。
靴を脱いで廊下を歩き、ソファーの上に鞄と自分の身を投げ出した。

普段のバイトの日より疲れたような気がするのは、神月くんに指摘された通り緊張していたからだろうか。

「あ、そういえば……」

仕事の相談はしなくてよかったんだろうか。
それが目的で一緒に帰る話になったはずなのに。

「ま、いっか」

言いたければまた次の機会に話してくれるだろう。
そう呑気に考えて、今日はもうお風呂に入って寝てしまうことにした。