「こほん。……で、なに?」
「佐野さんは、付き合ってる人いますか?」
「え、付き合ってる人?」
「彼氏です」
「や、それはわかる」
付き合ってる人イコール彼氏だということくらいわかる。恋愛経験がゼロという訳でもないので、「付き合うって、どこに?」なんていうボケをかましたりもしない。
つまり今自分が神月くんに、彼氏がいるのかどうか聞かれているのだということは、わかる。
問題は、何故そんなことを聞いてくるのか、だ。
とは思ったものの、別に大した意味なんてないんだろうな、とも思う。
大学生にとってこの会話は、初対面の人にだってする挨拶みたいなものなのだろう。
「今はいない」
「本当ですか?」
「嘘つかないよ」
すいません、と呟いた神月くんの顔を見ようと思ったけれど、ちょうど街灯と街灯の間の暗い場所にいるので、どんな表情をしているのかわからなかった。
「……私も聞いていい?神月くんは彼女何人いるの?」
これは、ただの興味本位だ。いかにもモテそうな今時の大学生がどんな感じなのか、興味があるだけだ。
「俺は……ていうか、その質問おかしくないですか?彼女って何人も作るものじゃないでしょ」
「え、だって神月くんなら何人でも作れそうじゃない?」
「……喜べばいいのか悲しめばいいのかよくわかりません……。ていうか俺は!」
神月くんが急に大きな声になったので、びくっと肩が動いた。
神月くんは、もう夜中近いということを思い出したようで、はっとした様子で辺りを見渡した。
そして、今度は小声でこう言った。
「俺は、二股とか絶対にしませんから。好きになったその人のことだけしか見てません!」
「……すいません」
真剣に反論されて、とっさに謝罪した。
そんなに怒らなくても。というか、なんだか、すごく。
「……今好きな人がいるような言い方だね?」
そう言うと、神月くんは小さく息を吐いて、否定も肯定もしなかった。
「……とりあえず今は、彼女はいません」
ああ、この情報がバレたらますますコンビニに新しい客が増えそうだなと、こっそり思った。


