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神月くんがだいぶ仕事に慣れてきたある日、バイトの終わり時間が重なった。
「佐野さんお疲れ様でした」
「お疲れ様ー」
2人してバックルームに入り、自分の名前が書いてあるロッカーを開ける。
制服のジャケットを脱いでカーディガンを羽織るだけなので、着替えるのに更衣室は必要ない。
帰る準備を済ませて次の出勤日を確認していると、神月くんが隣から覗き込んできた。
「あ、明日は佐野さんいないんですね」
「わ、」
近い。
顔がすぐそこにある。
そんなに近付かなくても見えるよ、と言いそうになってやめた。
「明後日は俺が休みなんで……次に会えるのは明々後日ですね」
次に会えるのは、って。
まるで彼氏と彼女みたいな言い方に驚いて、すぐ近くにいることも忘れて勢いよく神月くんの顔を見てしまった。
「……あ」
今度は何故か神月くんが驚いた顔になった。
そして、だんだんと彼の顔が赤く染まっていくのを、間近で唖然と見つめた。
「ち、近いですね」
照れたように笑いながらそう呟いて、神月くんは一歩後ろに下がった。
最初にすぐ近くに来たのはそっちなのに。一体どういうつもりなのだろうか。
神月くんは、なんだか不思議な人だ。
さっきみたいにやたらと距離が近かったり、自然に私を女扱いしてくれたりするところを見ていると、モテそうなだけあって女性の扱いをわかってるなあとか、もしかしてタラシなのかなあとか思ってしまう。
けれど今のように、急に照れたような反応をするところは、慣れてないのかなあとも思う。
まあつまり、よくわからない人だ。


