静かな声で言った春子の言葉に、一瞬驚いた一翔だが、その表情はすぐに厳しいものに変わる。
「…親父と母さんは、一年ほど前に死にました。手紙なんて来るはずがない。冷やかしなら帰ってください」
「冷やかしなんかじゃないわ。…ほら、見てみなさい」
春子の手にある、薄い桃色の封筒。
そこには確かに『黒川 一翔様』と独特な字で書かれていた。
(これは…親父の字!!)
きれいだが独特な書き方で、誰も真似ることの出来なかった字が、確かにそこにあった。
「おじゃましてもいいかしら?」
一翔の確かな反応を見て、春子はもう一度尋ねる。
「…どうぞ」
この人は食えない人だ、と内心思いながら、一翔は中へ招き入れた。

