それは一翔だけではなく紫月も感じているらしく、春子のその様子を冷ややかに見ていた。
それを知ってか知らずか、春子は特に二人を気にせず話し始めた。
「そうね…まずは、クライヴ事件のことから話しましょうか。いっちゃんは、クライヴ事件って知ってるかしら?」
「クライヴ事件?…それって確か、アメリカで起きた史上最悪と言われてる……」
聞いたことはあるが、詳しくは知らない。
なんせ、一翔が生まれる前のことだ。
「ええ。死者は1000人を超えたと言われてる、その名の通り“史上最悪の事件”よ。犯人はアーレン・C・クライヴという青年ただ一人」
それを聞いた一翔は絶句した。
(たった一人で死者を1000人以上出すって…)
2001年に起こったアメリカの同時多発テロは、3000人近くの人々が亡くなったらしい。
被害の規模で言えば、こちらの方が上かもしれない。
しかしそれを計画し、実行したのは組織だ。
たった一人で1000人近くの人間を殺せるなんて、正気ではない。
「このニュースは世界に波紋をよんだそうよ。ただ、この事件が注目された一番の理由は、死者の多さでも犯人の数でもないわ」
「“魔法”の存在が、明らかになったからよ」

