「…夕陽、どうした?やっぱり静に会いたくなかったんだな」

夕陽の背中を擦りながら、圭吾が言う。

でも、夕陽は、首を何度もふる。

「…じゃあ、どうした?言わなきゃわからないだろ?」
「…なかった」

「…ん?なかったって?」
「…静さんは」

「…うん」
「…女の人じゃなかった」

夕陽の言葉に、圭吾は目を見開いたが、直ぐに笑いだした。

「…そうか、静って聞いたら、誰だって女だって思うよな。アイツ、仙崎静、同じ内科医だよ。この間、医局で会っただろ?」

夕陽は小さく頷いて、上目遣いに圭吾を見た。

圭吾は微笑んで、夕陽の頭を優しく撫でる。

「…誤解させてごめんな。…静が、俺の彼女かと思ってた?」

困った顔をしながら、夕陽は頷く。

「…ヤキモチ?」

…流石に頷けない。

その代わり、みるみる夕陽の顔が、恥ずかしさで赤くなっていく。

そんな夕陽を見て、圭吾はたまらなくなって抱き締めた。

「…夕陽、可愛すぎ」
「…ちょ、」

「…ダメ、離さない。夕陽がヤキモチ妬いてくれるなんて、嬉しすぎ」

「…ぅー」
「…俺のこと、少しは異性として、見てくれるようになった証拠だろ?」

『好き』といえば、今すぐ両思いになるのに。言えないもどかしさ。

口では言えないけれど、夕陽は圭吾に抱きついた。

しばらく、抱き合ったまま。

そこへ、静からメール

『いつまで、待たせる気だ?』

「…夕陽、店に戻ろう?静が待ちくたびれてる」
「…はい」

二人は手を繋いで、店に戻った。