振り返った圭吾は…まだ、笑顔。

「…何?」
「…お義兄さんだからって、夕陽の時間を奪う権利はないでしょ?」

春人の後ろから、咲が小さな声で、もっと言ってやれと言ってる。スゴーク小声で。

「…兄であり、保護者だからね。こんな足で連れ回ってほしくない、わかる?」
「…」

圭吾の言葉に、春人も正論なので、言い返せない。

「…うちの、夕陽がお世話になりました」

そう言った圭吾は笑顔を浮かべ会釈した。



「…もう、春人!なんで、行かせちゃうの?!」
「…目が」

「…目?」
「…目が笑ってなかった」

春人の言葉に、咲は眉をひそめた。



「…圭吾さん、あの」
「…」

夕陽の言葉に、圭吾は返事をしない。

「…怒ってます?」
「…」

やっぱり何も言ってくれないので、夕陽はシュンとして、俯いてしまった。

せっかく一日ぶりに顔を会わせたのに、なんで怒っているのかわからない。でも、怒っているのは確かで。

「…夕陽」

やっと、圭吾が口を開いた。

夕陽は静かに圭吾を見る。

「…他の野郎に愛想笑いするな」
「…ぇ」

圭吾の言葉に、目を見開く。

「…夕陽は俺だけに笑って」

…信号が赤に変わって、夕陽を見た圭吾は、困ったような笑顔を浮かべた。