…同棲を始めて数週間。

職業柄、すれ違いも多く、家で一緒に居られる時間の方が短いくらい。

それでも、二人でいるときは、圭吾さんが、私をこれでもかってくらい、溺愛してくれる。

『今夜は早く帰れそう』

圭吾からの連絡に、張り切って夕飯の支度をする。

最後に味を整えて、納得する。

「…ん、おいし…っ?!」

そんな私を後ろから誰かがぎゅっと抱き締めた。

「…良い匂い」
「…驚いた。声くらいかけてください!圭吾さん」

驚かそうとしたんだろう。

圭吾の思惑通り驚かされたが、少し膨れっ面で圭吾を見上げれば、圭吾はしてやったりの顔で見下ろしている。

「…ゴメン、ゴメン。…一生懸命作ってくれてる後ろ姿があんまり可愛くて」

そんなことを言われたら、怒れなくなる。

「…帰ってきたんだけど?」
「…おかえりなさい」

困ったような笑みを浮かべ、そう言うと、圭吾は満足そうに微笑んだ。

「…ただいま」

いつまでも怒ってなんていられない。

二人きりの時間なんて、ほとんどないのだから。

ぎゅっと抱き締めあって、キスをして、おでこを合わせて互いの目を見つめあい、微笑む。

…幸せってこう言うこと。

何でもない小さな幸せだけど、それを噛み締めたくて仕方ない。