「布団は借りられても、枕は人と共有だと嫌だと思ってイルカのクッションにしたの」
「そうだな。よだれを垂らされてもとりあえず安心だな」
「ちょっと!私はよだれなんか垂らさないわよ」
「いや、水野のことだからいつ垂れても不思議はない」
そんな私と榊田君の応酬を美玖ちゃんは低い声で遮った。
「ここで寝てるって、二人きりで?お兄ちゃんの布団借りて?」
何か、マズいこと言っただろうか?
あどけない可愛らしさがすっかり消えてしまっていた。
「う、うん。そうだけど……」
恐る恐る私が答えると、
「もしかして、付き合い始めた?」
美玖ちゃんに最後の希望に縋るような視線を向けられたところで、榊田君の冷ややかな声。
「お前には関係のない話だ」
美玖ちゃんは榊田君を一瞥しただけで、すぐに私に視線を戻した。
「小春ちゃん。いくらなんでもそれはないでしょ?さすがにお兄ちゃんが可哀想だよ」
真剣な目を向けられ思わずたじろぐ。
美玖ちゃんが怒っているのは、イルカのクッションがあまりに榊田君の部屋に合わないから。
そうではないことは確かだ。
「美玖。お前、かなりウザい。消えろ」
先ほどより冷ややか、というか絶対零度。
美玖ちゃんも冷ややかで、さすがは兄妹、第三者の私が息をすることさえ憚るほど怖い。
暖房とこたつで温まっている部屋が、凍りついた。
私は、この空気で言葉を発することはできないで二人を見ていた。
「……あっそ。そうやって小春ちゃんには何も言えないわけだ。だから侮られるんだよ」
「これ以上、俺を怒らすマネすんな。どうなるかわかってるよな?」
そこで、美玖ちゃんは軽く肩をすくめ、息を吐いた。
その動作で空気が幾分軽くなったが、まだ私は氷のように固まって動けない。

