「いつでも電話して良いんだからな?最近、俺が一方的で寂しいんだぞ?」
アパートの前で、仁くんは私の目の位置まで屈めた。
故郷とは違う、青白い外灯。
それでも、彼の身に纏う色はオレンジだ。
私の大好きな色。
「そんなこと言ったら、毎日かけちゃうかもよ?」
不思議な感覚。
幻想的でふわふわするのに、この胸のドキドキだけは現実的だ。
彼は、淡い笑みを浮かべた。
大好きで仕方がない温かな笑み。
笑うときに下を向く癖も変わらない。
「小春」
彼は私の名をゆっくり呼んだ。
途端に、決別した雪に覆われた故郷を思い出す。
私の大きな転換期はいつでも春の到来を間近に控えている、静かなあの故郷。
恋のはじまりも。
彼にふさわしくなろうと誓ったのも。
彼を諦めようと、決意したのも。
全部、あの雪に覆われた故郷。
「俺は何よりも誰よりも小春の幸せを願ってる」
私の幸せ?
その手を、ずっとずっと離さないでいること。
ずっとずっと私が仁くんの隣にいること。
それだけを願ってきた。
私の幸せを願うならば、叶えられるのは彼しかいなかった。
けれど、私が彼に向ける愛情と彼が私に向ける愛情は違う。
その違いを無視して、見ない振りをして彼の隣にいても私の幸せではない。
「小春が幸せなら、誰が犠牲になっても構わない」
彼は佳苗さんの幸せより、彼の生まれてくる子供の幸せより。
自分の幸せより。
私の幸せを願っている。
それならば、私が向ける想いと同じものを返して欲しい。
そんな無理なことを思ってしまう。
私は勝手で、誰よりも自分が可愛い。
自分の幸せが一番だ。
彼が他の人と一緒にいるのに、彼の幸せを祈れるほど大人じゃない。
それとも、彼の愛情のほうが上なのだろうか?
彼のほうが私を思ってくれているのだろうか?

