佳苗さんは私と仁くんを信頼してるって言ったけど、それは違う。
仁くんが佳苗さんを悲しませるようなことをしないと、彼女は確信しているのだ。
「それは俺がお前のことをわかってなくて信頼してないってことかよ?」
彼の声色ですっと周りの空気が冷たくなった。
自分の発言のマズさに慌てて弁解する。
「違う!私がいつも無神経で榊田君に不愉快な思いをさせてるから、信頼されてなくて当然だと思う」
榊田君は私を大事にしてくれているのに、私はそれに応えるどころか、彼に不愉快な思いをさせるばかり。
「別に信頼してないわけじゃない。お前と仁がどうにかなるなんて思ってない」
だがな、と彼は軽く息を吐き出して、私の手をぎゅっと握る。
「理屈じゃない。嫌なもんは嫌なんだ。それに俺の感覚が普通だ。佳苗がおかしいんだ。間違いなく」
きっぱりと榊田君は言い切った。
何とも榊田君らしい偉そうな態度で、思わず笑みがこぼれた。
そんな私をギロリと榊田君が睨むから、一度咳払いをして笑いを止める。
「お前たちはあまりに仲が良すぎる。佳苗の心は宇宙よりも広いんだ。人間の域を越えてる」
確かに佳苗さんは寛大だ。
佳苗さんへの敵意を剥き出しにしていた私に懲りずに話しかけてくれた。
彼女の瞳に映った私はあまりに幼さなくて、胸が空いた。
私は心も器もすごく小さい。
どこか無神経で、どこか足りない。
でも、榊田君はそんな私の手を握ってくれている。
「榊田君も銀河系より広い心は持ってるよ。私と付き合ってくれてるもの」
榊田君にそう言って笑いかけると、彼は顔を引きつらせ、から笑いをした。
「それで誉めてるとでも?ちゃかしてるように聞こえるのは俺の気のせいか?」
「どっちともハズレ。私の運の良さを自慢してるの。榊田君みたいな恋人がいて私が羨ましいでしょ?」
彼に微笑みを投げかけたら、呆れたようなため息を返された。
「だから、そんな素敵な恋人に愛想つかされないようにする」
「は?」
不可解そうな榊田君の目を見つめる。
「明日、仁くんとは会わないし、これからも仁くんと二人きりでは会わない」
約束を破るのは申し訳ないけど、私がこの恋をどれだけ大切にしているか仁くんは知っている。
だから、ちゃんと分かってくれると確信があった。
「別にお前の好きにすれば良い」
榊田君からの返答は予想外のもので、いつも通りの口調なはずなのには私には冷たく聞こえ、息を呑んだ。
「明日もいつでも仁とは好きに会えば良い。明日のために用意してたんだろ?」
いつもと変わらない榊田君に、声が震えそうになる。

