気まずい。


 気まず過ぎる。


 それでも、今日の約束をドタキャンすることはできない。


 彼と顔を合わせたくない。


 榊田君から今日は行かないというメールを期待していたが、そんなメールは来ないで約束の正午お迎えが来た。



「何だよ。今日ぐらい寝こけてくれれば良いものを」



 玄関のドアを開けた私にため息一つ吐いた。





















「いいか、水野。姉貴の言うことを真に受けるな。姉貴は……」



「はいはい。お姉さんには妄想癖があるのよね。榊田君これで何回目?」



 道中、彼は同じ言葉を何度も何度も繰り返す。


 もう聞くのもうんざりだ。



「まだ五回目だ」



「五回も言う必要がどこにあるのよ?もう聞き飽きた」



「水野の場合、三歩歩けば忘れるだろうから、俺が親切にも……」



 隣の榊田君に目だけ向ける。


 鋭く尖った目を。



「私は鳥じゃ、ありません!」



「鳥より学習能力が低そうだ」



「榊田君!!」



 私が怒鳴ると、彼は耳を塞いだ。


 顔を合わせたら、どうしようかと思ったが、彼は昨日のことを忘れたかのように、いつもの榊田君。


 最初は身構えていたが、本当に気にしてないとわかったら、肩の荷が下りていつも通りの私たち。


 今日は美玖ちゃんと榊田君のお姉さん、明美さんと会うことになっていた。


 榊田君はおまけ。


 勝手についてきた。


 どうも美玖ちゃんもだが、お姉さんを特別警戒している様子。


 榊田君がここまで怯えさせるお姉さんとは一体どんな人なのだろう?


 ますます興味がわいた。


 それがなくても興味がある。