「私、読み終わったんだけど」
「ふーん」
「まだ読み終わらないの?」
「お前のマンガと一緒にすんな」
「ちょっと、それマンガに失礼!」
握りこぶしで榊田君を叩くが、彼は私に構っていられないと無視をし始めた。
こう無視をされると、なおさら構って欲しくなる。
というか、甘えたい。
今日でとりあえず長い受験生活も一区切りしたのだから、ご褒美が欲しい。
私は、何とか構ってもらおうと彼の首に腕を回し背中にのしかかる。
そのまま思いっきり体重をかけ、彼の読んでいる本を覗き込む。
分厚い上に字が小さくて、思わず顔をしかめてしまう。
彼はこんな本ばかり読むから、しかめ面なのではないだろうか。
「……重い。離れろ」
「そんな軟弱な鍛え方してないでしょ?それに私は重くありません!こんなの読んで楽しい?」
「水野、お前な……。離れろ!」
そう言って、彼の首に絡みついた手を引き剥がされ、ついでに身体も引き剥がされた。
これが恋人に取る態度だろうか?
私は機嫌を損ねた。
「俺は本を読んでんだ。邪魔すんな」
難しい本だ。
話しかけられたりしたら、わけがわからなくなるだろう。
でも、私がいる時ぐらい私を優先して欲しい。
「付き合う時に榊田君は甘えても良いって言ったじゃない?」
正確には言ってないけど、私の甘えたがりを許容してくれると私は解釈した。
今まで勉強で忙しくて甘えている暇なんてなかったから、存分に甘えたかったのに。
ぶすっとむくれていると、彼はため息を吐いた。
それがうんざりしているようで、やっぱり甘えられるのは鬱陶しいのだとわかった。
彼が嫌がることはしたくない。
だから、さらりと笑顔を作った。