「さあ、どうすんのよ彼氏くん」


なんていいながらも、茉夏センパイは目で訴えてきた。



「…俺、謝ってくる」

「よし、言いたいこと言っておいで!」

「無理はさせんなよ」



茉夏センパイと龍センパイに背中を押され、俺は沙弥の部屋へ向かった。



「…。」



気合は十分だったくせに、部屋の前に立つとドアを開ける勇気は出ない。

一歩、踏み出さなきゃ。


沙弥のため、応援してくれてるみんなのため、そしてなにより……自分のために。



コンコン


「…」



カチャ


「沙弥…起きてる?」



ドアの隙間から中を覗くと、その愛しい人の姿はベッドの上にあった。


「寝てる…か。まあいいや。…俺さ、不安なんだ。引っ越して、会えなくなって、沙弥は知らない男たちに囲まれながら部活やってて…信じてないわけじゃない。…俺はちょっとのことで妬いて、怒る。けど沙弥はそんな俺を好きって言ってくれた。」


寝ている人に聞こえてるはずがないけど、伝えたい。



「俺は今までもこれからも、沙弥が好き。沙弥だけが好き。正直、沙弥以外の女なんか眼中にない。重いけどこれが俺の気持ちだよ……早く元気になって」



眠る沙弥の額にそっとキスを落とし、俺はドアの方へ向かった。



光莉と俺のどんな噂を聞いたのかはわからない。だけど…全部、ただの噂。


……沙弥はきっと、俺を信じてくれる。


パタン…



とりあえず、熱がある人に無理をさせるわけにもいかないし、退散。


「…」


若干名残惜しいけど、仕方ない。