『渚ちゃん、謀ったわね』
『え?何のこと?』
『しらじらしい』
『恭介君、何か言ってた?』
『別に…渚ちゃんの淹れてくれたコーヒーは格別だって、褒めてたよ』
『ふうん…そう』

褒められたというのに、そこには全く興味がなさそうに相槌を打たれる。

しばらく、何か考え事をしている様子の渚ちゃんは

『うん!そうね、やっぱり褒めてくれたなら、それ相応のお礼言わなきゃね』

何故かわざとらしくそう言うと、小野崎さんの元へと向かう。

店内を縫うように、颯爽と歩く渚ちゃんは、途中のテーブル席のお客様にもにこやかに声をかけ、その周りを明るくする。

ウエーブのかかったロングヘアーは、一つのお団子にしてスッキリとまとめ、その後ろ姿から見える遅れ毛が、妙に色っぽい。

やっと到着した小野崎さんの席の横に立つと、何やら二人で談笑し始めた。

そのあまりにも似合いすぎる二人の姿に、ほんの少し胸が痛む。

『ごめん、ちょっとフロア任せていい?』
『あ、はい。大丈夫ですよ』

一緒に入っていたアルバイトの子にフロアをお願いして、一旦フロアの奥に下がる。

我ながら原始的な回避方法だけれど、見なければ済むことならば、こちらから見えなくなればいい。

彼を好きなのだと自覚してから、この想いが消えるまで、どのくらいの時間が必要なのだろう?

いっそのこと告白して振られた方が、スッキリするのだろうけれど、このお店の常連である彼が、ここに来づらくなってしまうのは、絶対に避けなければならない。

私にとっても、彼にとっても、ここは唯一の憩いの場なのだから。

ただ、好きと嫌いだけじゃない、大人の恋愛は難しい…。

裏口に向かう通路の柱にもたれ、ため息を吐きながら、そんな言い訳じみてる自分を自嘲した。