『…熱海の温泉饅頭?』
『そう、お裾分け』
『渚ちゃん、温泉行ってきたの?』
『私じゃないわよ、海(カイ)がね、彼女と行った旅行のお土産。何だか、大量にあって、すごく美味しんだけど、一人じゃ食べきれないから』
『へぇ…カイちゃん、例の彼女とまだ続いてるんだ…意外』

“カイちゃん”こと“進藤海成”は、渚ちゃんの弟で、身体つきは180㎝以上の大男で、見た目も顔もちょっと怖めのワイルド系男子なのだけど、実は根は凄く優しいということは、身内だったら周知の事実。

その外見や飾らなすぎる態度から、今までは”彼女”が出来ても一ヶ月も持たなかったのだけど、去年の年末くらいにできた新しい彼女とは、どうやらうまくいっているようだった。

『この前、うちにも来てくれてね。凄く良い子なの』
『年齢は?』
『海と、同じだって言ってたけど…見た感じはエリィと同じくらいに見えたかな?ここだけの話、本人には内緒だけど、親はもう、その先期待しちゃって』

話しながらも、ランチの仕込みを続ける手は止めずに、綺麗な指先で、ガラスの小鉢にサラダを盛り付けていく。

そのサラダを、パレットに並べ、保冷用のラックに入れながら、陽気な伯母が、嬉しそうにしている姿が目に浮かんだ。

『まだ、半年でしょう、ちょっと気が早くない?』
『海の場合、“もう半年”なのよ…っていうか、私がこんなだからねぇ、両親が海成だけでも早くお嫁さんを、って思うのも無理ないかも…ハイ!ランチサラダは完成!』

30代も半ばでこの美しさなのに、特定の彼氏も作らず、悠々自適にしている渚ちゃんは、周囲に“結婚には全く興味が無い”と公言していて、少し前までは嘆いてた伯父さん達も、最近は何も言わなくなったらしい。