私が唖然としてるそばから、喜々として自室からパソコンを持ってくる。

どうやら、桜の見物に行く場所を検討する様子。

『あ、でもお弁当とかだって、準備できないし』
『要らないよ。出店で適当に食べればいいし。それに、明日は日曜だから、少し遅くなっても問題ないだろ?』
『それなら明日の方がいいんじゃ…』
『あ~ごめん、明日の午後は、エリのお父さんと、ゴルフの打ちっぱなしに行く約束入ってるから』
『はい?それ聞いてないよ?…っていうか、いつの間に、お父さんと…』
『あれ?言ってなかったっけ?今度、和樹君と3人で、コース周るって話もしてるんだ』

目の前では、既に立ち上がったパソコンで、楽しそうに桜見物ができる場所を検索し始める。

付き合い始めて、気が付いた。

恭介さんは、年齢の割に、案外思っていたより子供っぽいところがある。

もちろん、あの日約束したように、強引に自分の考えだけで勝手に行動したりはしない。

今だって、必ず…

『…エリ』

不意にパソコンのキーを叩く手を止めて、私を振り返り、残念そうな瞳でじっと見つめる。

『でもやっぱり、エリは仕事帰りだし、疲れてるだろうから、またにする?』

ほらね、きちんと私の意向を聞いてくる。

それでも結局、確信犯のようなその愁いを帯びた瞳で見つめられ、私は簡単に陥落してしまう。

『…別に…良いよ』
『えっ本当に?もし、無理してるなら…』
『してない…私も、桜、見たいし』

眼鏡の奥で、瞳が揺れた気がした。