チリンチリン…

鈴の音のような軽やかな音と共に、扉がゆっくり開き、彼が入ってくる。

部屋の入り口近くにあるマガジンラックから、今朝入れたばかりの新聞を取ると、いつものように、定位置に座る。

『おはよう』

カウンターキッチンの内側から声をかけると、眠そうな顔で軽くこちらに視線を寄こして、笑顔を見せる。

『おはようエリ、いつものよろしく』

朝6時半、定刻の起床。

私は、彼のために、いつものモーニングセットを準備する。

手慣れた手順で、トーストを焼き、ハムエッグを作る。

コーヒーは、渚ちゃんから分けてもらった、お店と同じコナコーヒー。

テーブルには、ガラスの小鉢に、薄ピンクのシバザクラ。

…もう季節はすっかり春めいてる。

『エリ、今更だけど、君の寝室の扉にあの鈴をつけるの、やめたらどうかな?』
『どうして?』
『なんだか、渚さんのお店の音と被って、落ち着かない』
『そう?私はすごく心地よくて好きだよ。第一、恭介さんの部屋には無いんだから、別に問題ないと思うけど』

淹れたてのコーヒーをトレイに乗せ、テーブルに運ぶ。

『それだよ、それ。そもそも、いい加減、もう寝室は1つで良いんじゃないか?』
『それは、ダメ。けじめはちゃんとつけないと。私たち、同棲じゃないんだから』

…結局、あれから私は、恭介さんの申し出をありがたく受けて、年が明けてすぐ、彼のマンションの一室に引っ越し、今も住まわせてもらってる。