この時間帯は、まだ他にお客様はいないとはいえ、いつまでもここで雑談をしている訳にはいかないと『では、私はこれで…』と、仕事に戻ろうとすると『あ、もう一つだけ』と、引き留められる。
『何でしょう?』
『せっかくの機会だし、こうして毎日のように顔を合わせているんだから、これからは名前で呼ばせてもらっていいかな?』
『…名前』
『エリコちゃん?でいいかな?』
突然の申し出に、またまた心臓が跳ね上がった。
身内以外の男性に名前で呼ばれたのは、どれくらい前だろうか?
自分のキャラ的に、男友達にだって、苗字で呼ばれることが多いのに。
ましてや、“ちゃん付け”など、気恥ずかしくてとんでもない。
『もちろん君も名前で呼んでくれて構わない。俺は、小野崎恭介。恭介でいいよ』
そして、こちらの動揺など察することもなく、イケメンバーテンダーは、自らの名前を名乗り、先を進めてしまう。
今更後には引けなくなり、これ以上、自分の素が出ないようにと、その動揺を隠しつつ対応する。



