小野崎さんは、小さく息を吐くと、『これじゃ、どっちが年上だか分からないね』と優しく微笑んだ。

『わかった…約束するよ』

そう言って私の頬にそっと触れる。

『だから泣かないでくれ…君が泣いたら、渚さんの店に出禁になってしまう』
『な、泣いてませんから!』

プイッと、零れそうになる涙をこらえて、触れていない方に向きを変えると、すかさず反対側の頬も包まれてしまう。

『全く、君は…どれだけ俺を好きにさせるんだ』

包まれた頬はそのまま上向きに向けられ、二度目のキスを予感させる。

緊張と期待が入り混じったまま、それを受け入れるように、ゆっくり目を閉じ…。


”グゥ~…”


その瞬間、あろうことか、お腹の虫が鳴き出した。

『ん?』
『あ…』
『…絶妙だな、エリ』

このタイミングに、このシチュエーションで、この色気のない展開に、小野崎さんは声を殺して笑い出す。

『ご、ごめんなさい』
『いや、俺も腹減ったし…』

全く、いい歳した大人の男女が何してんだか…。

この期に及んで、自分の女子力のなさに、がっかりする。

『エリ、実はこの後、あの店のクリスマスディナー予約してあるんだ』
『えっ』
『キャンセルしないで…良さそうだな?』

少し意地悪そうに聞かれ、即座に『もちろん、行きます!』と答えると、また笑われる。

お腹が空いているからなのか、あのお店にもう一度二人で行けるからなのか、もうわからなくなるくらい幸せすぎる。

恥ずかしさもあって、早速食事に向かうべく歩を進めようとして、また小野崎さんに腕を掴まれ、引き寄せられる

『その前に、やっぱりもう一度だけ…』
『え、ちょっ…』

最後の言葉は、強引なキスで奪われる。

今度のキスは、さっきよりもさらに甘く、少し長めに…。

腰に廻された手は、今度は離すまいと強く、身じろぎさえさせてもらえない。

仕方なく、身を委ねるように瞳を閉じる瞬間、見えたのは真っ暗な空から、降り始めた白い粉雪…。


それは、最高のクリスマスプレゼント…。