今度は先ほどの強引さはなく、柔らかく包んだ手で、私の歩調に合わせて、ゆっくりと進んでくれる。

夜風が心地よく、隣の小野崎さんを見上げれば、その向こう側に半月が見える。

公園を出て元来た道を戻り、広い大通りに出ると、手を上げて一台のタクシーを止める。

『ちょっと、待ってて』

そういうと、タクシーの助手席のドアを開け、何やら運転手と話してる。

その間、たった今小野崎さんとつないでいた右手で、先ほど掴まれた左手首に触れ、その腕の静脈がかなり早く脈を打っているのを実感する。

『エリ、君の住所を伝えたから、今日は寄り道せず帰るんだ』
『小野崎さん、私…』

戻ってきた小野崎さんに、何か話さなければと声を発したけれど、その唇に小野崎さんの手が軽く触れた。

『え…』

その手を自分の口元に持っていくと、私の唇に触れた部分に、自らキスをする。

『歯止めが効かくなるから、今はこれで我慢するよ』

不意うちの間接キスに、まるで中学生のように自分の頬がカァと熱くなり、直接触れてもいない唇に、自分の手の甲を添える。

『お、小野崎さん、キャラ違いすぎです』
『そう?』

小野崎さんは余裕の笑みを返すと、『さぁ、乗って』と背中を押され、促されるようにタクシーに乗り込む。