『…エリ』

頭上から、甘い声音が私の名前を口にし、羞恥のあまり下を向いたまま、どうしたらいいのか迷ってしまう。

もう私の気持ちなど、隠しようがないほど溢れ出てしまい、誤魔化すこともできない。

顔を上げることを躊躇っていると、今度は頭を抱きしめていた手で、私の髪をゆっくり梳くように滑らす。

…ドキッ

そのままその手を私の顎に添え、下を向いていた私の顔を持ち上げる。

……キス?される?

そう思った途端、小野崎さんが両肩をつかんで、私を引き離す。

『やばい…エリ、少しは抵抗してくれないと』
『あ…ごめんなさい』

咄嗟に謝ると、『何、謝ってんの?』の噴き出す小野崎さん。

ほんの少し緊張感が解け、安心する。

『もう、覚悟決めるしかないな…』
『…?』

小野崎さんは、何かを決断したように、独り言のようにつぶやいて、微笑む。

ピピッ

腕の時計が、午前1時を知らせると、『行こう』と、私の手を取り、歩き出す。