掴まれた腕から、何か温かな感情が流れ込んでくるようで、その感情が胸を詰まらせる。

バーテン仕様の緩い前髪の隙間から、熱の籠った視線で見つめられ、どうにも動けない。

胸を打つ鼓動が高鳴り、自分に何が起こっているのか、わからなくなる。

『いつだったか、駅で会って君と飯食いに行ったのも、偶然なんかじゃない。君にもっと近づきたくて、渚さんに聞いたんだ。エリがアパート探してることや、あの駅の周辺の不動産を巡るって話も』
『…嘘…渚ちゃんから、そんなこと…何も聞いてない…』

美しい従妹の姿を思い出し、独り言のように、言葉を絞りだした。

『彼女は君よりずっと察しが良い。大人だよ、渚さんは…』

小野崎さんは、フッと笑うと、思い出したように続ける。

『…最も、あの時はまだ、君をどう思っているのか、自分でもよく分からなかったからね。ただ毎朝、君と会って話しているうちに、もっと君のことを知りたくなったんだ。エリも知っての通り、俺は恋愛なんてものから、随分遠ざかっていたからね、この感情が何なのか自覚するまで、随分時間がかかってしまった』

先ほどまで公園内を吹き抜けていた風が凪ぎ、今や小野崎さんの声が、澄んではっきりと聞こえた。

『…それに、今まで恋人は何人かいたが、こんな気持ちになったのは初めてで…正直、どう言ったらいいのか…』

困惑したような、それでいて照れた顔を見せる小野崎さん。

これは、現実?

願望が見せる幻影ではないだろうか?