仄暗くなってくる夏の夕暮れ時。
鬱蒼と覆い茂る新緑の大木。
赤い大鳥居が聳え立ち、砂利道が奥へとまっすぐ続く。
提灯がゆらゆらと灯っていて、祭客の顔を照らす。
はっきりと聞こえてくるお囃子の音に、子供達の楽しそうな声。
まだ神社内に足を踏み入れなくとも感じ取れる、人々の熱気。
私は、約束通りに神社前で先輩を待っていた。
下ろしたばかりの浴衣と履き慣れない下駄と。
初めて差した紅。
周りには同じように浴衣で着飾った女の子たちがたくさんいて、そのどれもが可愛く見えて
ここに立っているだけでだんだんと心許ない気持ちになっていく。
彼氏、彼女、恋人たち。
私は別に、先輩の彼女でもなんでもないし…
先輩がどういうつもりで私を誘ったのかもてんでわからない。
だから、ここでこうして先輩を待っていることが、どれだけ奇跡に近いか。
先輩はたぶん、わからないんだ。
りっちゃんは頑張れと言ってくれたけれど、
私は人を好きになったのなんて初めてで
何をどう頑張ればいいのかもわからない。
取り繕って可愛く見せる術なんて知らない。
先輩の前ではいつもありのままの、つまらない宮原つむぎがいるだけなのだ。
一人で考えているとどうしてもネガティヴな方向にばかり働いてしまう私は、
きょろきょろと先輩を探すことを諦め、じっと下駄の鼻緒だけを見つけて、
情けなくそこに突っ立っていた。
もしかしたら、先輩がお祭りに誘ってくれたなんて調子のいい夢かも…なんて思った時
ラベンダーの香りがした。
「下向いて、大丈夫?具合悪いとか、人の熱気に当てられたとか、そんなことない?」
ぱっと顔を上げると、灰色の男性用浴衣をさらりと着た先輩がふにゃりと笑って、立っていた。
「あ…せんぱい…」

