受話器の向こうで恒生は楽しげな顔をしているとそう思っていたけれど
一気にわからなくなった。
ただ、私がなにを言うかは自分でちゃんとわかっていて、意外にもすんなりと言葉は出てきた。
「ごめん。私、先約があって」
受話器越しにひゅっと息を吸う音が聞こえた。
「そっか。ごめんなー急に誘って。俺一応、屋台の手伝いとかしてるからさ、会うかもしれないし、楽しんでってよ」
「屋台の手伝い?恒生、そんなことしてるんだね。楽しみにしてるよ。誘ってくれて、ありがとう」
「おう!それじゃおやすみー」
「うん、おやすみなさい」
恒生から誘われるだなんて、学校では名誉なことに他ならないだろう。
先輩との約束がなければ、楽しい一友人とのお祭りとして行っていたかも。
恒生がどんな理由で私を誘ったのかまでは推し量ることもできないけれど、
夏祭りに誘ってもいいと思えるほど仲良くなれているなら、それはとても嬉しいことだ。
「つむぎ、電話終わったんなら早く寝なさい。浴衣の支度って時間かかるんだから、ちゃんと寝ておかないと明日、楽しめないわよ」
お母さんに促され、部屋に戻る。
明日は先輩に会える。
先輩にすこしでも可愛いと思ってもらえたら、
そうしたらそれ以上の幸せってきっとないだろう。
そんなことを思いながら、迎えた、
夏祭り当日。

