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夏祭り前日の夜。
はやる気持ちを抑えて布団に潜り込む。
あのあとお母さんに連れて行ってもらった、県の中心地内のお洒落なショッピングセンターで、浴衣を買った。
先輩の好みはいくら考えても分からないから、最終的にお母さんが似合ってると言ってくれた、和風の幾何学模様。
花柄などではない、少しレトロな模様で、色もくすみのある青と一風変わっている。

明日は着付けもお母さんが申し出てくれて、少し紅もさしてうっすらとお化粧もしてくれると約束した。
薄々感づいているだろうお母さん相手に、すこしくすぐったかったけれど。


先輩。
早く会いたい。






「つむぎー電話よー」


突然、階下からお母さんの声がした。
携帯を持っていない私は、専ら家の電話に直接かけてもらわなくては引き継いでもらえない。


お母さんから受話器を受け取り、そっと握る。


「…はい、変わりました。つむぎです」


「あ、つむちゃん?俺」


電話の主は予想だにしていなかったハスキーボイスで電話の向こうで楽しそうにしているのがよくわかる声をしていた。

「…おれおれ詐欺なら結構です…」


そう、こんな軽口をたたけるくらいには。


「いや、違うって。俺。恒生」

「わかってる、どうしたの?」

「いやぁ…あー、その」


珍しい。
恒生はその明るさでいつでも快活で、言葉を濁したりする人ではなかったはずだ。
電話越しとはいえ、こんな風になかなか話を切り出さない恒生も珍しい。


そういえば夏休みに入って、恒生とも顔を合わせていなかったなと思う。


「ん?なに?」


夏休み前は毎日恒生に会っていたけれど、今は先輩に会う頻度の方が高い。



「あー、明日の八森神社のお祭り、あるじゃん。つむちゃん、もしよかったら一緒に行かない?」


八森神社の夏祭り。
先輩に誘われた、明日の。
って、、え???


「え、お祭り?」


「あーうん。一緒に、どう?」