「お母さん、浴衣ってあったっけ?」
夕食後、洗濯物をたたむ母の後ろ姿にぽつりと漏らしてみる。
なんでもありませんよ、夏祭りに行くだけよっていう、そんな感じで。
「浴衣?浴衣ねぇ…一昨年のがあったと思うけど、どこに仕舞ったかしらねぇ。もしかしたらもう小さいかもしれないし、なに、つむぎお祭り用?」
母親とは世間一般でもいう通り鋭い生き物だ。こと娘や息子のことになるとわからないことなんてないのではないか。
お母さんは洗濯物をたたんでいた手を止めて、うーんと考え込むような仕草をしてから、わざとらしい明るい声音で言った。
「この際新しいのを買いに行く?ちょうどお母さん、明日仕事入ってないし」
「ほんと?助かる。ありがとう」
何かを察しても追求してこないところが、私のお母さんのいいところだなと思う。
友達のような感覚で付き合っていけるのはとてもありがたい。
これで浴衣を着るという問題は解決だ。
けれど、
「先輩ってどんな浴衣着たら喜んでくれるんだろ…」
大事な点がもう一つ。
Google先生に頼っても、先輩の好みなんて分かるわけがない。
そもそも先輩は私のことが好きで誘ったわけではないんじゃないだろうか。いや、そうに違いない。
きっと受験勉強の息抜きに誘うのに丁度良い存在が私だっただけだろう。
だけど、私にとっては胸踊るほど嬉しい誘いで、頑張れと応援してくれたりっちゃんの眩しい笑顔も思い起こされ、頑張ってみようという気になるのだ。

