「メフィスト」

マスターがわたくしを呼ぶ。
いつもとは違う、甘くて、少し意地悪なスパイスの混じった声音で。

「メフィスト、愛してる」

底抜けに甘ったるいとげが、私を刺す。
いつもの様に茶化して振り払おうとしても、それは毒のように絡み付いて、もうほどけない。
全身を灼かれるような切なさと、半ば強制的に焦がれさせられる屈辱。

「…わたくしもですよォ」

ない交ぜになった感情を瞳に滲ませてマスターを睨めば、わたくしも、という顔じゃないなとマスターは苦笑を浮かべる。

「悪かった。散々焦らしたのは謝るから、機嫌直してくれ、メフィスト」

「なら、早くどうにかしてくれませんかねぇ…っ」

そう、先程から私はこれ以上ない程に焦らされているのだ。
マスターの指先で、声で、体温で。
この身体はもう充分に熱を持たされているのに、その先へいく事は許されない。
敏感な所を緩く撫でる手は、微弱な刺激だけを私にもたらしていた。