ここに来たかったの?
そう。ここに来たかった。
彼が私を連れてきたのは、ザンビア共和国。
目の前に広がるはビクトリアの滝というらしい。
彼はそう言ったきり口を紡いで。
私もなにも言わなかった。
眼下いっぱいにひろがる壮大な滝と
その大地を打つ音だけが、
深い渓谷と私たち2人の間に響いていた。
写真を撮ろうか。
と彼がいい、重たいカメラを取り出してぱしゃりとシャッターを切る。
これでいつでも思い出せる。
悪戯に成功した子供のように、くふふと彼が笑うと、目尻のシワがきゅっと深くなる。
私は彼のこの目尻のシワがとてもすきで、
彼がこうして笑うだけで、心臓がきゅっと握られるような感覚を覚える。
ザンビアを訪れた突然の旅行を機に、
彼は出掛けるよとそれだけ言って
私を連れ出すことが増えた。

