呼吸器をつけられ、管が繋がれ、電子音の鳴る白い白い空間に
5日ぶりに会った彼は眠っていた。

私の耳には電子音の代わりに、彼が好きだったドビュッシーの月の光が朧げに鳴っていて。
ああ、こんな白い空間になんでぴったりなんだろうと、そう思う。


少しも動かない彼の右手をそっと握る。
カメラのシャッターを切ったその手。
私の手を掴んだその手。

そのまま永遠にときが止まるとさえ思った。
眠っている彼を前にしても私の心はまだ追いついていない。
早く走って。走って追いついて。


ゆるりと瞼が揺れ、淡い茶色が視点を彷徨わせ、
私の黒とかち合うと、眉毛がひくっと動いた。


わかってるよ。私に教えていないこと。
ずるいのね。
あなただけ辛い思いでいるなら、私にも少し分けて欲しかった。
一緒に持ったら重くなかった。
きっと、きっとそうなのに。




これが最後なんだとぼんやりわかる。
呼吸器は外されて、お母さんが彼と何か話す。
その背中が頷いて、丸まって、そして肩が優しく震えた。



行って。話してあげて。



涙でぐしゃぐしゃなお母さんに背中をそっも押されて、彼に近づく。