涙が出ないのはきっと何も理解できていないから。
私は酷く落ち着いていて、荷物を整理して夜行バスに乗った。
午後10時を過ぎたくらいで、東京まではバスで7時間かかり、そこから彼のいる病院まで電車で1時間。

どうして彼が、とか
悲しい、とか
そういった言葉の類はひとつも浮かばないで。
私が作り置きしておいたおかずは食べたのだろうか、とか
朝寝坊せずに仕事に行けたのかな、とか
もしかしたら洗濯物が干しっぱなしかも、とか
そんなことしか頭をよぎらなかった。



それでも私は眠れなかった。
理解していないのだ、だから涙も出ないだなんてそんなのはきっと言い訳で、
人間はそんなに理解力のない生き物ではないのだ。
突然に何か告げられたって、きっと理解はしている。
頭ではわかっている。
彼がいなくなってしまうのだということを。
心が、心だけが追いついていないだけなのだ。