忘れられない朝というのが、人間にはあるらしい。
そんな話を聞いたことがある。
私にとって、朝は一日を連れてくるもので
夜を私から引き離していくもので。
夜の闇のように孤独に優しく寄り添ってくれるものではなかった。
朝はそのお日様の快活な光ですべてを肯定してしまう、嫌なものだった。
そんな私にも忘れられない朝があるの。
あの日の朝のこと、私は何度も思い出した。
貧相で薄いカーテンから差し込むブラジルの朝。
光はそのまま彼の寝顔を柔らかく照らし、
キラキラと細かい雪のように、
ひらひらと舞う薄桃のように旋回する埃が光の道を辿り、
寝息とともに規則正しく上下する彼の胸と
漏れ出る命と、繋いだままの片手。
それからぎゅっと一回、力を入れられてからゆっくり上がる瞼と
薄く涙を乗せた綺麗なまつげと
そのまつげの影を少しだけ落とし、
朝の光の中で鮮やかな虹彩と凝縮した朝の粒が反射した茶色い瞳。
いつもの家の起床風景と変わらないはずなのに
どうしてだか、私にはあの朝が特別なものに思える。

