快楽の波の中でそんな事を考えながら、私は涙を流していた。

「大丈夫か?」

黒田さんの手が優しく頰を撫でる。
彼はいつだって優しい。
私の母にもこんな人がいたら良かったのだろうか。大丈夫だよと抱きしめてくれる人がいてくれたら。君は十分頑張った、もう頑張らなくていいんだよと側で言ってくれる誰かが。
私にはその役割だけは出来なかったから。



初めて、母の気持ちが分かったかもしれない時があった。とにかく自分を愛せなかった、死にたいと思っていた時。違う、今ならわかる。死にたいなんて思ってない。生きるのが辛かったのだ。母もそんな気持ちだったのだろうかと思った。そんな母の人生を可哀想だと思った。
今の私のまま彼女に会えば、私は彼女を抱きしめることが出来るだろうか。
憎しみは消えない。殺したくなる時もあった。でも、子供にとって親はいつまでも親で、母はたった1人の母なのだ。



家を出てここ数年、会ってない。

母はちゃんと生きているのだろうか。
2本の足でしっかり地面を踏んで歩いているだろうか。綺麗な服を着ているだろうか。ご飯を食べているだろうか。笑っているだろうか。
彼女に笑いかけてくれる人はいるのだろうか。一緒に泣いてくれる人はいるのだろうか。


母を、あんな可哀想な母を
愛してくれている人はいるのだろうか。