私は咄嗟に右足で地面を蹴って、前に飛び出しました。陸上部のクラウチングスタートのような最高の飛び出し。
音もなく、真っ暗な中、必死に目に焼き付けた撫子に向かって真っすぐ突き進みます。
しかし_____
「うっ! ペッ!」
砂が目の前からぶつかって来ました。私の足が無意識に止まります。そして、止まってしまってしまった! と思いました。
でも、思ってからは遅いのです。
右手に鈍痛。裁ちバサミをその場にバタリと落としてしまいました。その裁ちバサミを探そうとしゃがみ込んだところで、今度は私の右わき腹に鈍痛。思わず倒れ込み、右わき腹を押さえました。
そこにドカッと何か重いものがのしかかってきます。相手は撫子しかいません。
月が雲の前を通過して、辺りが明るくなりました。私の身体の上で笑っている顔は、やはり撫子の顔でした。
「目つぶし。これが、土方歳三の戦術。」
_____右手には私の裁ちバサミを持って。



