たとえこの身が焼かれてもお前を愛す

フィーアは片手で買い物かごを抱えながら、もう片方の手で馬のたてがみにつかまっていた。

馬の背に横向きに座っているのだから不安定この上ない。

本来ならエルンストの胸に体をあずけたほうが落馬しないはずだが、そうするわけにもいかない。

フィーアは必死でバランスをとりながら馬の背で揺られていた。

「お前がグラグラ揺れるから、俺もバランスが崩れる」

突然手綱から片手を離すと、フィーアの体を強引に自分の胸に引き寄せ、そのまま肩を抱いた。

片手で手綱をあやつり、片手でフィーアの体を抱える。

あっ。フィーアは声にこそ出さなかったが、ドクドクと血液が音をたてて流れる音が耳でする。心臓がダンスしている証拠だ。

ふと見上げたエルンストの顔は、無表情に手綱を操り前を向いているだけだった。


私はこんなにドキドキしているのに、ご主人様は何ともないお顔。

ジワリと一抹の寂しさを感じていた。



と、屋敷を目の前にして、突然馬がいな鳴いた。

どうやら馬の前を小動物が横切ったらしい。

興奮したように前足を浮かせる。

「どうどう」エルンストは手綱を引く。

「きゃっ」フィーアも買い物かご落とすまいとギュッ握る。