たとえこの身が焼かれてもお前を愛す

「あうっ」


女は苦しそうに声をあげる。


「やめろっ」


スラリとした長身の青年は馬から降りると、男の腕をつかんだ。


「へー、じゃあこの女買って下さいますかね、将校の旦那」


「なに?」


「ムチ打ちをやめて欲しけりゃ、この女を買うしかないでさぁ」


欠けた前歯を見せて男は笑う。


女を見ると地面にうつ伏せに体を横たえて、苦しそうに肩で息をしていた。
その表情は伺い知れない。


「こいつは上玉でしてね。夜はきっと旦那を楽しませてくれますぜ」


下品な笑いが青年をいっそう不快にさせた。

奴隷女を抱くだと?バカも休み休み言え。青年は思った。


「どうするんですか、旦那?買うんですか、買わないんですか?」

まるで青年を値踏みするような視線を男が向けてくる。

将校たって金もってんのかよ?そんな表情だ。


こんな下賤な男にそこまでされては青年としても引っ込みがつかない。

若気の至り?それとも貴族のプライド?生きる上で決して必要でないものが青年の口を動かしてしまった。



「いくらだ」


男はニヤリと口元を歪める。


「そうこなくちゃね。こいつは金貨50枚でさぁ」


「何だとっ?」怪訝な顔をする。