「ですがエルンスト様」

ヘレナは語気を強めた。


「たとえ上級貴族の娘であっても一度奴隷に身を落とした以上、身分は奴隷です」


「わかっているさ」


「決して恋心など抱かれませんように」


「俺は誰も愛せない。お前も良く知っているだろう?」


ヘレナは少し悲しそうにうなずいた。

私の育て方が間違っていたのだろうか?
ヘレナの心は深い闇に沈む思いだ。



「ところでヘレナ、薬は無いか?」

「薬でございますか?」


「これを見ろ」エルンストの指さす唇がはれ上がっている。


「まあっ!どうなさいましたの?」

暗闇でエルンストの唇がはれていることに全く気づかなかったヘレナは詫びるように頭を下げると口元に軽く指を添えた。