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一連の事件が落ち着いたころ、エルンストとフィーアはゾフィーの元を訪れていた。

ゾフィーの父ユンゲルス宰相も同席していた。

謁見ではないので呼ばれた二人も楽にしている。


「生まれてくる子供の後見人になって欲しいのだエルンスト」

ユンゲルスが言う。


「もちろんです伯父上。天地神明にかけてお世継ぎをお守りいたします」

胸に手をあててエルンストが頭を下げた。


「皇帝となるか、女帝となるか」ゾフィーは少し大きくなった腹を優しく撫でる。


そんなゾフィーを温かく見守る三人だったが、

「どうだエルンスト。お世継ぎが生まれるまでの間、帝位を預かる気はないか」

ユンゲルスが提案して来た。


「よしてください。それこそ、死ぬまで簒奪者と言われますよ」

冗談めかして肩をすくめた。

「それに、わたくしは今のままで充分です。美しい妻がいれば地位や名誉はもとより、他に何も望みません」

エルンストはフィーアの瞳を見つめた。


「まあ、仲睦まじくて焼けてしまうわ」ゾフィーがぷうっとほほを膨らませる。


ゾフィーの目の前ではばかることなく見つめあう二人は、紛れもなく大陸一美しい夫婦だった。


「コホン」ユンゲルスの咳払いで、二人は視線を外す。

そんな二人に女官たちから「ふふ」と笑いが起こる。


赤く頬を染めたフィーアが、「ゾフィー様には国母としてお忙しくなりますね」と、微笑む。


「フィーア。是非わたしとこれから生まれる子供を助けて欲しいの。あなたの知力と勇気は千の兵隊にもまさるわ」


「もったいないお言葉でございます。微力ながらお手伝いさせていただきます」胸に手をあててうなずく。