たとえこの身が焼かれてもお前を愛す

裏口を出ると、馬車が止まっている。荷台には”アンゲラー酒店”と書かれていた。


「どうかお気をつけて」ルイーズが心配そうに胸の前で祈るように手を組んでいる。


「大丈夫だ。必ず二人で帰ってくる」エルンストは自信に満ちた笑顔を向けると、馬車に乗りこみ、勢いよく手綱を馬の背に叩いた。


夕暮れの中、わずかに進んだ裏門にも兵士の姿がある。エルンストは内心舌打ちすると、帽子を目深にかぶり直す。


「止まれ」兵士は馬車の前で両手を広げて進路をふさいだ。


ゴクリとツバを飲み込む。緊張でわずかに指先が冷える。

言葉を交わせば声でバレてしまうだろう。だがその時はこの兵士を殺すまでだ。

何の罪もない人間を手に掛けるのは気が引けるが、運が悪かったと思え。

俺はフィーアのためなら味方を殺すことすらいとわない。


エルンストは帽子の陰から兵士にその瞳を向けた。

階級も低く、真新しい衛兵の制服。兵士になりたてではないか。

俺に声をかけないでくれ。お前を殺したくはない。エルンストは祈っていた。


兵士は荷台の文字を読むと、「さっきの酒屋か。行っていいぞ」そう言って通してくれた。

無言で会釈をし、慌てずその場を離れる。


屋敷が見えなくなったところまで来て、エルンストは緊張を弛めると大きく息を吐いた。

だが、難関はこれからだ。

フィーアの姿を思い浮かべると、エルンストは先を急いだ。