たとえこの身が焼かれてもお前を愛す

そんな二人を冷ややかな目で見ていたゲオルグは、
「エルンスト、どうしてその娘を縛らぬ?世の命を奪おうとしたのだぞ」

こともあろうか命令してきた。

図らずも、エルンストへの怒りは忘れ、
ゲオルグはフィーアに求婚を拒否された忌まわしい記憶がフツフツとよみがえり、完全に怒りの矛先をそちらに向けて来た。

生きていたのなら殺すまで。それもただではすまぬ方法で。

ゲオルグの幼児性を伴う残虐心が発揮されようとしていた。


「はっ?!」エルンストは耳を疑った。

お前のせいで人生を狂わされた憐れな姫を捕まえろと言うのかっ?!

むしろ俺の手でお前を殺してやりたい。

人の人生を何とも思わない、己の私利私欲だけで生きている皇帝ゲオルグをっ。

フィーアを抱く手がわなわなと震える。


「お前の仕事は世の命を守ることであろう。この娘は世を殺そうとしたのだぞっ!すぐに牢にぶち込めっ!!」


苦い表情をしたファーレンハイトは「閣下」静かに言うと、フィーアの腕をつかもうとした。


「フィーアは渡さぬ」ファーレンハイトの手を払う。


「閣下っ!!」


「この命に変えてもフィーアは渡さぬ」エルンストは剣を抜くとファーレンハイトの喉元に突きつけた。


近くで見ていたコンラートは血の気が引いた顔で、ガクガクと足を震わせ動けないでいる。今にも腰を抜かしそうだ。


「ファーレンハイト、何をしておる。さっさと捕らえんかっ。それとも外で控えている衛兵を世が自ら呼んで来るぞっ!!」


ゲオルグは「早くしろっ!!」とわめき散らしている。

ファーレンハイトの喉元に向けられた剣は微動だにしない。


「許せファーレンハイト。俺は今ここでお前と陛下を殺し、フィーアを連れて逃亡すらやってのけるぞ」


「閣下、冷静になって下さい。どう考えても形勢は不利です。今は私の言う通りにして下さい。ここでもめ事をおこせば、閣下の身分すら危うくなります。物事にはタイミングがあります。悪いようには致しません。機会をうかがうのです」

ファーレンハイトが小声でつぶやく。


「しかし.....」


「あなたならお分かりのはずです。もしあなたが逃亡したら、それを追うのは私が率いるシュバルツリーリエですぞ。それに今ここで逆らっては閣下も拘禁されてしいます。閣下が捕まれば、誰がフィーア殿を救うのです?」

ファーレンハイトは24歳の若さで中将だ。
その実力はエルンストが一番よく知っている。

エルンストにとって苦渋の決断だった。

苦悶の表情で剣をおさめると、そっとファーレンハイトにフィーアを渡す。


「心配するなフィーア。俺が必ず助けてやる」そう耳元でささやきながら、そっと耳に唇を寄せた。

フィーアは静かにうなずく。

そしてエルンストは皇帝によって自宅謹慎を命じられたのだった。