たとえこの身が焼かれてもお前を愛す

求婚を断った仕返し?ゲオルグの幼稚さがフィーアには理解できなかった。

エッシェンバッハのバカも許せないけれど、結局の元凶は今、私の目の前で得意気に話している人間の顔をした鬼畜。

わたしが憎いなら、わたしに報いを与えればいい。

それなのに.....。

父の無念、母の悲しみ。

許せない、天誅を加えてやる。


フィーアはわなわなと震えた。

怒りが理性を失わせた、とっさの行動だった。

メイド服に忍ばせていたナイフを取り出すと皇帝ゲオルグに襲いかかった。

「死ねっ!!」


エルンストが止めに入ったが一瞬、間に合わなかった。

突然のフィーアの行動にゲオルグも驚いて尻もちをつく。



が、「あっ....!」ナイフはフィーアの手から滑り落ちる。


「あなたのお気持ちは分かります。ですが、あなたを皇帝殺しの罪人には出来ません」

ゲオルグの脇に控えていたファーレンハイトにいとも簡単に制されてしまった。


「離してくださいっ!!」フィーアはファーレンハイトに後ろ手を取られ、かっちり抑えられた腕の中で必死にもがく。


「閣下」ファーレンハイトはフィーアをエルンストに引き渡す。


エルンストはフィーアを抱き寄せると、その腕の中でフィーアは声をあげて泣いた。

「何故黙っていた?」穏やかな口調でエルンストは問いただす。


「幸せな過去は、逆に邪魔になることもあるんです」



両国は表面上は友好を保っているが実はそこまで親密ではない。
奴隷のお姫様を保護したなど、隣国から申し出があれば、フォーゲルザンク王家にとって面目は丸つぶれ。何がきっかけで破綻するか知れない。そんな氷上の関係なのだ。

フィーアはそれを危惧して言えなかった。

それに貴族とは体面を何より気にするのだ。
奴隷の焼印を押されたお姫様が帰って来たところで、扱いに困って結局幽閉されて長い人生を暗い塔のなか過ごさなければならない。

そんな生活は奴隷よりマシかもしれないが、自分を我が物にしようとする従兄の存在がフォーゲルザンクに帰る気持ちを失せさせていた。

奴隷に身を落とした時からフィーアが祖国を捨てていたのだ。