暗闇の草原に、天がいかずちを振るった。

バチバチと草を叩く雨音と激しい雷鳴。


「──俺を置いていくのか?」

フィーアが握っていた短剣は間一髪でエルンストの手で抑えられていた。


「言ったではないか。お前のいない未来など俺には意味が無いと。お前がカロンの船に乗るというなら、俺はヴァルハラの門をくぐるぞ」


ヴァルハラ....戦士が死んだら行くと言われている館。エルンストたち騎士は死んだらそこに行くと信じていた。


「死んだら俺たちはむしろ離れ離れだ。だから生きている今、お前を死ぬほど愛してやる」


そう言うと雨に打たれるフィーアに強引に唇を重ねた。

エルンストの想いをフィーアに伝えるように。


「お前の過去や身分など俺は気にしていない。だからお前も気にするな。誰が何を言をうと聞かなければいい。俺たちは決して離れない。俺はお前を離さない。それが神に背くことだとしたら、たとえ地獄の業火にこの身を焼かれようともかまわない」


草原に響きわたる雷鳴は祝福なのか、それとも呪詛なのか。


「身分を隠して生きていくことが辛いか?」


「.....」


「ならば皇帝の前で宣言しよう。俺は奴隷の娘と結婚するとなっ」


「いけませんっ」フィーアの瞳は真剣に訴えていた。

「あなたの爵位がはく奪されます」

「爵位とはそんなに大切な物か?俺の未来はお前と共にある。俺がお前の盾となろう」


エルンストはフィーアを強く抱きしめた。

「俺からすり抜けるな。俺を独りにするな。いつぞやの晩、おれを孤独から救うとお前は誓ったはずだ」