たとえこの身が焼かれてもお前を愛す

ファーレンハイトはにこっりと笑うと、

「今日はお屋敷にお帰りになると思いますよ。深夜になると思いますが」

そう教えてくれた。


エルンスト様がお帰りになる。あの方にお会いできる。

フィーアの心は一瞬弾んだが、それもすぐにしぼんでしまった。


「おや、嬉しくないんですか?」


どうやらフィーアはうっかり表情に出してしまったらしい。


「う、嬉しいってどうしてですか?」ファーレンハイトから視線を外す。


「閣下と愛し合っておいでなのでしょ?」


「ま、まさか。わたくしはお屋敷にお仕えする侍女です。そんなことあり得ません」


ファーレンハイトはため息をついた。


「嘘が下手ですね」

その瞳は呆れると言うよりも、フィーアを心配しているように見えた。


「お幸せなんですよね?」更に聞いてくる。


幸せ?そう幸せだから余計に辛い。


たとえ結婚出来なくても、お側にいられるだけでいいのだ。

そう思い直せば一時の不安は晴れる。

でもそれがいつまで続くのか?いつか終わりが来るのではないか?

私以上に愛する女性が現れたら?

答えの出ない疑問を振り払えず、フィーアの心は迷宮に迷い込んだようで自分でもどうしようもなくなっていた。