次の日、エルンストはランドルフ・フォン・ベッヘムを執務室に呼び出した。

程なくして、衛兵に付き添われ姿を現したベッヘムに椅子を勧め、自分は壁にもたれて腕を組んでいた。

机をはさんでベッヘムの正面に座ったのはファーレンハイトだ。


一晩を営倉で過ごしたベッヘムは不満を漏らしていたが、ファーレンハイトの説明を聞いてその口はすぐに静かになった。


「グレーテ妃があなたを殺して欲しいと陛下に具申したのです」

それを聞いてベッヘムは青くなった。どうやら思い当たる節があるらしい。


「僕はグレーテの恋人でした。突然別れを告げられてどうしたのかと思っていたら、皇帝陛下の側室になっていました」


やはり。エルンストは内心うなずく。


「命を狙われる理由が、あなたには分かりますか?」穏やかにファーレンハイトが問う。


ベッヘムは小刻みに震えだす。


「ぼ、僕は何もしてません」


その様子を見ていたファーレンハイトは、ベッヘムは文官としては有能でも人間としては小物だな。的確な洞察力を発揮させていた。

それはエルンストも同じだった。

人間の本質とはこんなところで伺い知れるものだ。