「お辛い記憶ですね」


「ああ....だがお前に比べれば....」

ここでフィーアを引き合いに出すなど、どうかしている。エルンストは口ごもった。


「苦しみを比べることは出来ません。苦しみを抱えた人は皆一様です」


「どうしてお前はそんなに強くいられるのだ?」

エルンストの指がフィーアのほほにかかる。


「強くなんかありません。愛する人を理解したいと思えばこそです」


「俺の大切なものはいつも俺の前から消えてしまう。だからお前を大切なものにしたくない」


エルンストの口づけはまるで青い月のように、いつもどこか寂しい。


失うことを恐れて、こわがって臆病になって。


そんなエルンストを優しく受け止めるフィーアだった。