たとえこの身が焼かれてもお前を愛す

こうしてエルンストは若くして、ベーゼンドルフ家の当主となった。


自分で望んだわけではないが、当主とは面倒なものだ。
エルンストは常に感じている。

家柄だの、名家のしきたりだの、エルンストにとっては苦痛なものばかり。

父親の代から執事として仕えているコンラートは何かと口うるさい。


つい先日も「ご主人様は御年24であらせられます。そろそろ奥方様をお迎えになりませんと。お父上が同じ年の頃にはすでにご結婚され....」
延々昔話を聞かされた。


口を開けば結婚しろだ。
正直エルンストはうんざりしている。


「結婚などする気はない」


美男子のエルンストは女嫌いでも男色家でもないのだが、結婚にだけは興味がなかった。

一人の女を愛することが自分にはできそうもない。
いつもそう思っていた。


だが男として性欲の処理はきっちりしている。

毎晩とは言わないが、娼婦を抱くことはする。

女を愛せないのだ。


そんなところがコンラートには不満だった。

『女性嫌いでないのなら、是非ご結婚されて早く跡継ぎを』

ふいにエルンストの思考に不法侵入したコンラートの顔を忌々しげに振り払おうと、頭を強くふる。


「俺の代でベーゼンドルフ家も終わりか」

コンラートが聞いたら気絶しそうな不吉な言葉を吐くエルンストだった。