漆黒が隠す涙の雫

お兄ちゃん以外の人に“おやすみ”と言われたのも、あんな風に優しく触れられたのも初めてだったから、


凄く…凄く衝撃的な出来事だった。



なのに、


何で今の今まで忘れていたんだろう?



「葛原…潤さんですよね?」


「……」


「私の事、覚えていませんか!?新の妹の愛華です!!」


彼は、真っ直ぐに私を見つめたまま表情を変えない。


「お兄ちゃんの居場所を知りませんか!?突然…いなくなってしまったんです。どこを探しても見つからなくて……」


お兄ちゃんが“親友”だと言った彼なら、きっとお兄ちゃんの行方を知ってるはず。


やっと…やっとお兄ちゃんに辿り着ける。



そう、思ったのに……。





「知らない」




「……え?」



「あんたの事も、あんたの兄ちゃんてやつの事も、知らない」



………何で?


どうしてそんな事を言うの?



「じゃあね」



彼はそう言うと、金髪の男の反対側へと回り、怪我した男を支えるようにして、倉庫の入口の方へと歩いていってしまう。



「何で、そんな嘘を言うんですか!?」



私は、その背中へと叫ぶ。


「本当は、お兄ちゃんの居場所を知ってるんでしょ!?」


降り始めた雨粒が、ぽつりぽつりとコンクリートの色を変えていく。