*愛華said*


「…このプリントは明日までに…–––」


帰りのHRの先生の話を、どこが上の空で聞いている私は、これから始まる人生初の人質生活の事で頭がいっぱいだった。



“人質にしてください”



昨日、私は潤くんにそう言った。


勢いとかそんなものじゃない。


潤くんになら自分の身を預けてもいい。


そう思ったから。


だけど、そもそも人質ってなんなんだろう?


潤くんに限って、私を怖がらせるような扱いはしないと思ってはいたけど、ちょっとした監禁くらいは覚悟してた。


だって、人質って言うくらいだし……。


だけど、今私はこうして学校に来ていて、バッチリ丸一日の授業を終えたのだ。


潤くんは、“次にあった時に説明する”って言っていたけど、その“次”すら約束をしていないし……。


今日、私がまた翼鷹の倉庫に行けばいいのかな?


行ったら潤くんに会えるだろうか?


開けられた窓から風が入り込み、カーテンが大きく膨らむ。


ふと窓の外に目をやれば、梅雨がもうすぐそこまで来ているような、どんよりとした曇り空。


湿り気を帯びた風の匂いが、昨日の記憶を呼び起こさせる。



……あんな風に、誰かに抱きしめられたのは初めてだ。